統計解析をAI全任せしたフローまとめ(手法提案→解析→論文記載)

はじめに

今回は、統計解析をAIに全任せしたフローをまとめます。

全任せというのは、研究課題を考案したところ以降の全部です。

つまり、今回人間が行ったのは研究課題を考案したところだけです。

具体的には、

  1. DeepResearchで研究課題から統計手法を提案してもらう
  2. そのまま解析手順書を作成してもらう
  3. 解析手順書に沿ってCursorで解析&レポート作成
  4. さらにStatistical AnalysisとResultsの一部を追記

これを全部AIに任せます。

早速実践過程を見ていきましょう。

統計手法のリサーチ

今回は、下記の仮想の研究課題を題材とします。

仮想の研究課題

大腸がんstageⅣの患者に対し、従来のレジメンに免疫チェックポイント阻害薬を併用することで2年死亡率は低下するか?

  • 研究デザイン: 既存データ(観察研究)
  • 研究デザインのPICO:
    • Patients: stageⅣの大腸がん患者
    • Intervention: 従来のレジメン+免疫チェックポイント阻害薬
    • Comparison: 従来のレジメン
    • Outcome: 2年生存率
  • 交絡因子: 年齢、性別、Performance Status

まずは、DeepResearchを使って研究課題から統計解析手法を提案してもらいます。


下記の情報に基づき最適な統計解析手法を提案してください。

  1. 調査の目的
    • 臨床疑問に対する適切な統計解析手法を明らかにする
    • 必要なデータフォーマットを理解する
  2. 明らかにすべきこと
    • 臨床疑問に対する適切な統計手法。
    • 解析に必要なCSVファイルの形式。
  3. 臨床疑問

    「大腸がんstageⅣの患者に対し、従来のレジメンに免疫チェックポイント阻害薬を併用することで2年死亡率は低下するか?」

    • 研究デザイン: 既存データ(観察研究)
    • 研究デザインのPICO:
      • Patients: stageⅣの大腸がん患者
      • Intervention: 従来のレジメン+免疫チェックポイント阻害薬
      • Comparison: 従来のレジメン
      • Outcome: 全生存期間
    • 交絡因子: 年齢、性別、Performance Status
  4. 前提条件
    • 対象分野: 医学、疫学
    • 研究対象のデータ: 電子カルテデータ
    • サンプルサイズ: 100例程度
    • 解析のレベル: 統計や疫学の専門家がみても妥当な手法。できれば、統計専門家以外の医学研究者にとっても理解しやすいこと。
    • 解析ソフトウェア: R
  5. 出力形式

    日本語で出力してください。

    統計専門家でなくても理解できるように説明してください。

    統計手法のリミテーションや注意すべきバイアスに触れてください。

    複数の統計手法を比較検討してください。

    最後に下記を必ず含めてください。

    • 最も推奨される統計手法
    • 解析に必要なデータフォーマット
      • データ定義リスト
      • データセットのテーブルをHTML形式で提示

この最初の指示に対して、AIから下記のような逆質問が返ってきました。

最初の指示に対するAIからの逆質問

下記のように返答しています。

患者ごとのデータは横持ち(一行が一人の患者)と考えてよいでしょうか?
>はい

2年死亡率はバイナリ(生存/死亡)データとして扱われる想定でしょうか?
>はい

交絡因子として年齢・性別・Performance Statusを考慮するとのことですが、これらをどのような尺度で記録しているか(例:年齢は連続値、PSはカテゴリー変数など)を教えてください。
>年齢は連続値、PSはカテゴリー変数

予測変数(治療群)を含めた回帰モデルの適用を想定されているか、それともマッチング(例:傾向スコアマッチング)や逆確率重み付け(IPTW)などの方法も考慮したいでしょうか?
>両方提示し比較検討して最適なものを選択して

数式や統計的な専門用語を最小限に抑えた説明が必要か、それともある程度の数式を含めてもよいでしょうか?
>数式は含めない

この後、約4分間のリサーチ後、AIからリサーチ結果が返ってきました。

AIが作成した統計手法に関するレポート全文は↓のトグルボタンをクリックすると表示されます。


背景と目的

本研究は、大腸がんStage IVの患者を対象に、標準治療レジメンに免疫チェックポイント阻害薬を追加併用することで2年死亡率(2年以内の死亡リスク)が低下するかを評価することを目的としています。電子カルテ由来の既存データを用いた後ろ向き観察研究であり、交絡因子として患者の年齢性別、およびPerformance Status (PS)が考慮されています。適切な統計解析手法を選択し、交絡因子を調整した上で併用療法(従来のレジメン+免疫薬)と対照(従来レジメンのみ)の2年死亡率を比較検討します。

候補となる統計解析手法の比較

本解析で検討する主な手法として、ロジスティック回帰分析傾向スコアマッチング (PSM)逆確率重み付け (IPTW)の3つが挙げられます。それぞれ解析結果の解釈のしやすさ、交絡因子の調整の適切性、サンプルサイズへの影響の観点から長所と短所を比較します (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。以下に各手法の特徴を示します。

ロジスティック回帰分析

ロジスティック回帰分析は、二値アウトカム(本研究では2年以内の生死)に対して、治療介入(免疫薬併用の有無)と交絡因子(年齢・性別・PSなど)を説明変数として含める多変量解析手法です。伝統的に観察研究で交絡調整に広く用いられてきた方法です (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。

  • 解釈のしやすさ: 回帰分析の結果として調整オッズ比を得ることができ、介入群の2年死亡リスクが対照群に比べてどの程度かを示します。オッズ比は医療分野で馴染みのある指標であり、例えばオッズ比0.8であれば「併用療法により2年死亡のオッズが20%減少」と解釈できます。ただしオッズ比はリスク比と異なる点に留意が必要ですが、アウトカムがまれであればリスク比に近似されるため実用上大きな問題はありません。
  • 交絡因子の調整: 年齢・性別・PSといった交絡因子を同時にモデルに含めることで、それらの影響を統計学的にコントロールできます。モデルが正しく指定されていれば、交絡因子の偏りを調整した介入効果の推定が可能です。一方で、交絡因子が多くアウトカム発生数が限られる場合にはパラメータ推定が不安定になる恐れがあります (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。そのような状況では、次に述べる傾向スコア法のように多数の交絡因子を1つのスコアに集約する手法が有効です (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。またロジスティック回帰は線形性や交互作用の仮定に基づくため、モデルの設定を誤ると交絡調整が不十分になる可能性があります。
  • サンプルサイズへの影響: ロジスティック回帰そのものはデータを削減しません。利用可能な全症例を解析に含められるため、統計的パワーを最大限確保できます(欠測値がある症例は除外または補完が必要です)。標本サイズが十分に大きければ、モデルに複数の交絡因子を含めても信頼区間の精度は確保されます。ただし、交絡因子の項が増えるほどモデルの自由度が増え、サンプルサイズに対する要求も高まる点には注意します。

傾向スコアマッチング (PSM)

傾向スコアマッチングは、まず傾向スコア(各患者が併用療法を受ける確率)を年齢・性別・PSなどの共変量から推定し、そのスコアに基づいて介入群と対照群の患者をマッチングする手法です (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。これにより観察研究において擬似的な無作為化を実現し、両群で交絡因子の分布をできるだけ均等にした上でアウトカムを比較します (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。

逆確率重み付け (IPTW)

逆確率重み付け(IPTW)は、傾向スコアを用いて各症例に重みを付与することで交絡調整を行う方法です。具体的には、併用療法を受けた患者には1/(傾向スコア)の重み、受けていない患者には1/(1-傾向スコア)の重みを割り当てます。こうした重みを適用することで疑似的な人口集団を作り出し、その集団では交絡因子の分布が介入群間で等しくなるよう調整されます (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。すなわち、観察データにおいてランダム化比較試験で得られるような群間のバランスを再現しようとする手法です (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。

  • 解釈のしやすさ: IPTW後のデータでは、重み付けされた擬似集団における介入群と対照群のアウトカムを比較することになります。解析自体は重み付けを考慮したロジスティック回帰や率の比較で行われ、得られる指標(例えば重み付けオッズ比やリスク差)は「交絡因子で調整済みの治療効果」として解釈できます。概念的には「もし交絡因子分布が両群で同じだったなら、2年死亡率はどう異なるか」を示すものです。直観的なマッチングに比べると手続きは見えにくいかもしれませんが、交絡因子で調整されたオッズ比など従来指標で結果を示せるため、臨床的な解釈も十分可能です。
  • 交絡因子の調整: IPTWは傾向スコアモデルに含めた交絡因子について、重み付けにより群間の分布不均衡を解消します (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。適切な傾向スコアモデルを構築すれば、年齢・性別・PSといった交絡因子で整合した集団間のアウトカム比較が実現し、交絡のバイアスを取り除いた因果効果の推定が可能となります (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。ただし、傾向スコアモデルの仕様に敏感であり、もしモデルから重要な項や非線形効果が漏れていると、重み付け後も完全にはバランスが取れず推定にバイアスが生じる可能性があります (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。また、傾向スコアが極端に0または1に近い患者(まれな症例)は非常に大きな重みを持つため、分散が不安定になったり推定が影響を受けたりします。そのため、重みの上限を設定したり外れ値を除外する工夫が推奨されます (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。
  • サンプルサイズ: IPTWの利点は、基本的に全症例を解析に活用できる点です (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。重み付けにより対照群に相当する情報が複製された形になるため、PSMのように症例を捨てずに済み、統計パワーを確保しやすくなります (
    An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
    )。例えば上記のように背景の偏りが大きい場合でも、極端な重みを持つ症例以外はすべて解析に寄与します。ただし実効的なサンプルサイズ(有効サンプルサイズ)は重みの分散により低下することがあるため、非常に偏った重みが多数存在する場合には事実上の情報量が減少する点には注意が必要です。それでも、症例数の損失が直接生じるマッチングと比べれば、IPTWはサンプル全体を無駄なく活用できる方法と言えます。

推奨される解析手法

以上の比較から、本研究目的に対しては逆確率重み付け (IPTW) を用いた解析が有力な選択肢となります。IPTWは交絡因子である年齢・性別・PSを傾向スコアに集約し、重み付けによって群間の交絡を調整できるため、観察研究データから治療介入の因果効果を推定するのに適しています。特に本研究のようにサンプルサイズが十分確保されている場合、IPTWを用いることでデータを最大限に活用しつつ交絡調整が可能です (
An introduction to inverse probability of treatment weighting in observational research – PMC
)。一方、解析結果の解釈を現場の研究者に納得してもらうためには、従来法である多変量ロジスティック回帰による結果も併せて提示すると理解が深まります。幸い、近年の報告では傾向スコア法による結果と伝統的な回帰分析による結果が概ね一致するケースも多く (
Comparing Propensity Score Methods Versus Traditional Regression Analysis for the Evaluation of Observational Data: A Case Study Evaluating the Treatment of Gram-Negative Bloodstream Infections – PMC
) (
Comparing Propensity Score Methods Versus Traditional Regression Analysis for the Evaluation of Observational Data: A Case Study Evaluating the Treatment of Gram-Negative Bloodstream Infections – PMC
)、両手法で一貫した効果が示されれば結果の信頼性が高まります。また、「傾向スコア解析は観察研究における因果推定で従来の回帰分析より有望なアプローチである」とする報告もあり (
Comparing Propensity Score Methods Versus Traditional Regression Analysis for the Evaluation of Observational Data: A Case Study Evaluating the Treatment of Gram-Negative Bloodstream Infections – PMC
)、IPTWによる推定量(例えば2年死亡のオッズ比またはリスク差)は交絡調整された因果効果として示すことができます。ただし、いずれの方法でも未測定の交絡因子によるバイアスは残り得るため (
Comparing Propensity Score Methods Versus Traditional Regression Analysis for the Evaluation of Observational Data: A Case Study Evaluating the Treatment of Gram-Negative Bloodstream Infections – PMC
)、結果の解釈にあたってはその限界も述べる必要があります。

まとめ: 主解析にはIPTWによる重み付け調整ロジスティック回帰を用い、補足的に従来のロジスティック回帰分析やPSMによる解析を行って結果のロバスト性を検証することが望ましいでしょう。これにより、交絡因子を適切に調整しつつ医学的に意義ある形で「免疫チェックポイント阻害薬併用の2年死亡率への効果」を評価できると考えられます。

データ定義リスト

本研究で使用するデータの項目と内容は以下の通りです。各変数の名称、データ型、および説明をデータ定義リストとして示します。

変数名 データ型 説明 (内容)
patient_id 整数 (Integer) 患者ID(固有の識別子)
age 数値 (Continuous) 年齢(診断時または登録時の年齢、単位:歳)
sex カテゴリ (Binary) 性別(Male=男性、Female=女性)
performance_status カテゴリ (Ordinal) パフォーマンスステータス(0〜4のスケール。0=良好〔制限なし〕、4=重度障害〔介助を要し寝たきり〕)
treatment カテゴリ (Binary) 治療群(0=従来レジメンのみ、1=従来レジメン+免疫チェックポイント阻害薬併用)
outcome_2yr カテゴリ (Binary) 2年以内の生存状態(アウトカム指標。0=2年生存、1=2年以内に死亡)

CSVデータのサンプル

以下に、上記のデータ項目に対応したCSV形式のサンプルデータを示します(数例分を抜粋)。各列はそれぞれpatient_id, age, sex, performance_status, treatment, outcome_2yrに対応しています。


      patient_id,age,sex,performance_status,treatment,outcome_2yr
      1,65,Male,1,1,0
      2,72,Female,2,0,1
      3,55,Male,0,1,0
      4,80,Female,3,0,1
      5,63,Male,2,1,1
      6,70,Female,1,0,0
      

上記の例では、例えばpatient_id=1の患者は65歳・男性でPS=1、免疫療法併用治療を受け、2年以内に生存しています(outcome_2yr=0)。一方、patient_id=5の患者は63歳・男性でPS=2、併用療法を受けましたが2年以内に死亡しています(outcome_2yr=1)。このようなデータ形式で解析用データセットを構築し、統計解析手法に供します。

参考文献(出典)

Deep Researchによる回答の要約

提案された手法は以下の3つでした:

  • 逆確率重み付け (IPTW)
  • 傾向スコアマッチング (PSM)
  • ロジスティック回帰分析

これら3つの手法について、それぞれ解釈のしやすさ、交絡因子の調整、サンプルサイズの3つの観点から比較検討が行われました。

そして、最も推奨される統計手法として逆確率重み付け (IPTW)が選択されました。

さらに、解析のために必要なデータセットについて、以下の情報が提示されました:

  • データ定義リスト: 各列の変数名、データ形式、データの入れ方の具体例を示します。
  • CSVファイルのサンプル: 上記のデータ項目に対応したCSV形式のサンプルデータを提供します。

解析手順書の作成

続いて、リサーチ結果に基づいて解析手順書を作成してもらいます。

下記のような指示を出します。

ここまでの内容を踏まえ、AIがRコードを作成し実行するための解析手順書をMarkdown形式で作成してください。

コード例の提示は不要です。自然言語で可能な限り詳細に記述してください。

AIが作成した解析手順書は↓のトグルボタンをクリックすると表示されます。


1. 目的

大腸がんStage IVの患者を対象に、従来のレジメンに免疫チェックポイント阻害薬を併用した場合と従来のレジメンのみの場合とで、2年死亡率がどのように異なるかを評価する。主な交絡因子として年齢・性別・Performance Statusを考慮する。

2. データの確認および前処理

  1. データ読込
    • CSVファイルをRで読み込み、データフレーム(例:df)として保存する。
    • 列名の確認・整合性チェック(例:patient_id, age, sex, performance_status, treatment, outcome_2yr)。
  2. 欠損値の処理
    • 欠損値がある場合、その原因・パターンを確認し、必要に応じて適切な処理(例:完全ケース解析、単一/多重代入法など)を実施する。
  3. 変数型の指定
    • sex, performance_status, treatment, outcome_2yrfactor型に変換する(カテゴリー・バイナリ変数として扱う)。
    • agenumeric型(連続値)として設定する。
    • performance_status のレベル(0,1,2,3,4など)の順序を確認し、必要に応じてordered factorに変換する。
  4. データの要約
    • 代表値、頻度分布などを確認し、異常値や外れ値がないかを確かめる。

3. ロジスティック回帰分析

  1. 目的
    • 交絡因子を調整した上で、治療群(免疫チェックポイント阻害薬併用 vs 非併用)による2年死亡率の差を検討する。
  2. 手順
    1. ロジスティック回帰モデルを構築する。アウトカムはoutcome_2yr、説明変数はtreatment、調整因子はage, sex, performance_status とする。
    2. モデルの推定結果を確認し、治療効果を示すオッズ比と95%信頼区間、p値を解釈する。
  3. 実行イメージ(自然言語で説明)
    • 例: glm(outcome_2yr ~ treatment + age + sex + performance_status, family=binomial, data=df)
    • 結果を要約して、treatment の回帰係数(オッズ比)が1よりも小さい(例えば0.8)なら死亡オッズが低減、1よりも大きければオッズ上昇と解釈する。
  4. 注意点
    • オッズ比とリスク比は異なるが、2年死亡という比較的限られた期間であれば稀なアウトカムと仮定して近似できる場合もある。

4. 傾向スコアマッチング(PSM)

  1. 目的
    • 観察研究における擬似的な無作為化を目指し、治療群と対照群の背景因子分布を揃えた上で、2年死亡率を比較する。
  2. 手順
    1. 傾向スコアの推定
      • ロジスティック回帰を用いて、treatmentを従属変数とし、age, sex, performance_status を説明変数としてモデル化し、各患者の傾向スコアを予測する。
    2. マッチング
      • 推定した傾向スコアを用いて、治療群と対照群の患者を1対1または1対2などの方法で近傍マッチングする。
      • マッチング方式(例:最近傍、半径、カリパーなど)と適切な閾値を設定する。
    3. バランス診断
      • マッチング後、共変量の分布(例:標準化平均差)を確認し、バランスが取れているかを評価する。
    4. アウトカム比較
      • マッチ後のデータセットを用いて、単純に2年死亡率を比較する、あるいはマッチドペアを考慮したロジスティック回帰やMcNemar検定を行う。
    5. 結果の解釈
      • マッチング後にどの程度のサンプルが残ったかも含めて、オッズ比やリスク差を報告する。
  3. 注意点
    • マッチングから外れた患者は解析対象から除外されるため、サンプルサイズが減少する可能性がある。
    • マッチングが適切に行われたかどうかを、バランス診断で必ず確認する。

5. 逆確率重み付け(IPTW)

  1. 目的
    • 傾向スコアを用いて各患者の重みを計算し、背景因子が均質化された疑似集団を構築する。
  2. 手順
    1. 傾向スコアの推定
      • PSM同様に、treatmentを従属変数、age, sex, performance_status を説明変数とするロジスティック回帰により傾向スコア(介入を受ける確率)を推定する。
    2. 重み付けの計算
      • 介入群患者:重み = 1 / 傾向スコア
      • 非介入群患者:重み = 1 / (1 – 傾向スコア)
    3. 重みの安定化(推奨)
      • 重みが極端に大きくなることを防ぐために、安定化重み(例:重み × 全体の介入群割合など)を用いる。
      • 上限カットオフの設定(例:重みが10を超える症例は10に固定)なども検討する。
    4. 重み付き解析
      • 重みを考慮したロジスティック回帰(または加重付き集計)で2年死亡率を比較する。
    5. バランス診断
      • 傾向スコアマッチングと同様、重み付け後に共変量の分布(標準化平均差など)を確認し、群間でバランスが取れているかを検証する。
  3. 注意点
    • サンプルサイズ自体は減らないが、極端な重みを持つ患者がいる場合には推定の分散が大きくなるため、安定化重みやトリミングを考慮する。
    • 傾向スコアの推定モデルに含む変数が因果推論に適切か事前に検討する必要がある。

6. 結果のまとめ方

  1. 主解析としてIPTW
    • 推定された重み付きオッズ比および95%信頼区間、p値を報告する。
    • 傾向スコアの分布やバランス診断の結果(重み付け後の標準化平均差など)をあわせて示す。
  2. 追加解析として多変量ロジスティック回帰、PSM
    • それぞれで得られたオッズ比と95%信頼区間、p値を提示し、IPTWとの結果を比較する。
    • 傾向スコアマッチングでは、マッチング後のサンプルサイズを明示する。
  3. 結果の整合性
    • 各手法の結果が概ね一致すれば結論の頑健性が高まる。
    • 結果が不一致の場合、手法ごとの仮定やデータの減少量などを検討し、考えられる原因を明確化する。

7. 考察・バイアスの検討

  1. 未測定の交絡
    • 年齢、性別、PS以外の重要な交絡因子が測定されていない場合、完全に調整できない点を考慮する。
    • 実臨床では腫瘍の遺伝子変異や患者の合併症などが影響する可能性がある。
  2. 交絡因子モデルの妥当性
    • 傾向スコアの推定モデルにおいて、線形項だけでなく必要に応じて2次項や交互作用を含むかを検討する。
    • 適切なモデリングが行われないと重み付けやマッチングが不十分になりバイアスが残存する。
  3. サンプルサイズ
    • ロジスティック回帰やPSM、IPTWなど複数手法を行うためには、最低限の症例数が必要。100例程度であれば、パラメータ過多を避けるため交絡因子を厳選する必要がある。
  4. 傾向スコアの安定性
    • 小規模データで極端な確率(0または1に近い)をとる症例が多い場合、重みの変動が大きくなり信頼区間が広がる可能性がある。

8. まとめ

本解析手順書では、Rを用いて大腸がんStage IV患者に対する免疫チェックポイント阻害薬併用の2年死亡率への効果を評価する際の標準的な流れを示した。

  • 多変量ロジスティック回帰: 最もオーソドックスな方法
  • PSM: 直観的に背景因子を揃えられるが、マッチング漏れに注意
  • IPTW: データをフルに活用可能だが、傾向スコアの推定精度に左右される

各手法の特徴やバイアス、手順上の注意点を踏まえ、本研究で扱うサンプルサイズや変数に応じて最適な解析法を選択・実施し、その結果を比較・総合的に解釈することが重要である。


以上が、Rで実行するための解析手順書の概要である。実際のコード化にあたっては、読み込んだデータフレームの変数名やコード例に注意しながら、必要なパッケージ(例:MatchIt, twang, survey, tableoneなど)を適宜インストール・ロードして使用する。

AIが作成した解析手順書の要約

解析手順書を要約すると下記について具体的な手順を提示してくれました。

  • データの確認および前処理
  • ロジスティック回帰分析
  • 傾向スコアマッチング
  • 逆確率重み付け

解析手順書の保存

生成された解析手順書は、Markdownファイルとしてこれから解析を行う作業フォルダに保存しておきましょう。

ChatGPTの場合は、まず生成されたメッセージの下部に表示されるコピーボタンをクリックして、テキストをコピーします。

コピーボタンをクリック

作業フォルダに解析手順書.mdというファイルを作成します。.mdというのはMarkdownファイルの拡張子です。

Markdownファイルの作成方法が分からない場合は、こちらの記事の「5. Rファイルを作成しよう」の説明に沿って、「ファイル名.R」とするところを「ファイル名.md」とすればMarkdownファイルが作成できます。

作成したMarkdownファイルに、先程コピーしたテキストを貼り付けます。

コピーしたテキストを貼り付け

これで、解析手順書の準備は完了です。

解析用データの作成

本来はここから手持ちのデータを使って(あるいは、これから症例データの集積を行った後に)解析を行いますが、今回は手持ちのデータがないので、解析用データをAIに生成してもらいます。

AIには下記のように指示を出しました。

ここまでの内容をふまえて下記のRコードを生成してください。

– データフォーマットに従ってサンプルデータを作成
– “sample_data.csv”ファイルとして出力

上記2点以外は行わないでください。

作成されたsample_data.csvの先頭10行は下記のようになります。

patient_id age sex performance_status treatment outcome_2yr
1 54 Male 3 0 1
2 79 Female 0 1 1
3 60 Female 2 0 1
4 84 Male 3 0 1
5 87 Female 2 0 0
6 42 Female 4 1 1
7 66 Male 3 0 1
8 85 Male 3 0 1
9 68 Male 3 1 0
10 63 Female 0 0 1

この仮想症例データと解析手順書を用いて、次のステップで実際に解析を行います。

解析とレポートの作成

いよいよ、解析です。

先程の手順で作成した解析手順書に沿って、Cursorのcomposer (Agentモード) で自動解析を行い、解析レポートまで一気に作成してもらいます。

CursorのComposer機能に関してはこちらの記事をご参照ください。

解析レポートの作成にはQuartoというドキュメント生成システムを使います。Quartoの導入方法についてはこちらの記事をご参照ください。

下記のように、解析手順書(Markdownファイル)と患者データ(CSVファイル)をAIに参照させた状態で指示を出しましょう。


AIにファイルを参照させる機能の使い方はこちらの記事をご参照ください。

解析手順書に従って、Rで統計解析を行い、Quartoで解析レポートを作成してください。データは”sample_data.csv”を使用してください。

指示を出した後、下記手順で解析が進んでいきます。

  1. QuartoファイルにRコードとテキストの入力
  2. 実行時に必要なパッケージをインストールするためのRファイルを作成
解析に必要なファイルの作成

必要なファイルの作成が完了すると、下記のようにファイルの実行ステップにうつります。

ファイルを実行させる前には実行許可ボタンを押すステップがあります。

ファイルの実行ステップ

今回は特にエラーも出ず、解析が無事完了しました。下記のようなメッセ―ジが表示されます。


これで、解析レポートの作成は完了です。

今回はここで終了せず、さらに論文に記載するStatistical AnalysisとResultsを記載してもらいます。

Statistical AnalysisとResultsの作成

解析レポートに、論文に記載するStatistical AnalysisとResultsを追記してもらいます。

下記のような指示を出します。

下記の手順に従い解析レポートにStatistical AnalysisセクションとResultsセクションの追記を行ってください。既存の内容は削除しないでください。

[手順1: Statistical Analysisの記載]
解析レポートにStatistical Analysisセクションを追加し、臨床研究論文のMethodsのstatistical analysisに記載する英文を記載する。

[手順2: Resultsの記載]
2-1: 新規Rファイル「save_results.R」を作成し手順1の解析結果をまとめたRDSファイルを出力する。
2-2: 次の手順で使用するために「save_results.R」の結果を確認する。

[手順3: Resultsの記載]
手順2で確認した「save_results.R」のすべての結果に基づいて、解析結果の臨床研究論文のResultsに記載する英文を解析レポートに追加する。

この指示を出した後、自動で解析レポートにStatistical AnalysisセクションとResultsセクションの追記が行われます。

そして、最終版のファイルを実行させると、下記のようなメッセージが表示されます。


これで、解析結果、論文に記載するStatistical Analysis、およびResultsが記載されたレポートが完成しました。

完成したレポートはこちらです。

今回のまとめ

解析結果

解析結果を確認すると、IPTWの安定化重みの計算について1点誤りを発見しました(解析レポートにコードも載っています)。

本来は曝露群には「治療群のコホート全体での割合 ÷ その人の推定治療確率」の重みを、非曝露群には「対照群のコホート全体での割合 ÷ その人の推定対照確率」の重みを計算する必要があります。しかし、今回の解析では全ての患者に「治療群のコホート全体での割合 ÷ その人の推定治療確率」の重みを計算していました。

原因を調査すると、解析手順書において

重みが極端に大きくなることを防ぐために、安定化重み(例:重み × 全体の介入群割合など)を用いる。

と記載されています。

この記載の例の部分をそのまま受け取った結果、非曝露群の重みに全体の曝露割合を乗じる誤りが発生してしまったようです。

Statistical Analysis

Statistical Analysisは解析内容に沿って良い感じに記載してくれています。

これまで同様の方法を試した経験では、AIによるStatistical Analysisの記載は結構完成度が高いです。叩き台を作成するには充分な役割を果たしてくれると思います。

一点注意点があり、レポートの記載にはRのバージョンが4.2.0とありますが、実際は4.3.2なのでこの記載は完全に誤りです。この対策としては、Rバージョンを確認するコードをレポートに追記するよう追加の指示を加えましょう。そうすれば正確な情報を記載してくれるようになるはずです。

Results

Resultsの記載については実際の結果と異なっている箇所が散見されるので注意が必要です。

一方で、レポートにはない数値がResultsに記載されている場合でも、計算すれば正しい部分もあり(例えば解析レポートにはlogオッズ比の結果が表示されているが、Resultsにはオッズ比(exp(logオッズ比))の結果が記載されている)、単純にレポート内の数値をとってきただけではないようです。

解析結果をAIに確認させるステップが上手くいく場合と上手くいかない場合があり、まだまだ改善の余地がありそうです。

Resultsのセクションの冒頭では、何を記載すればよいか分からない場合に、たたき台として利用することができます。細かい数値や結果のまとめの文章は、必ず解析結果と照らし合わせて齟齬がないか確認するようにしましょう。

その他のリミテーション

欠測値について

今回は、欠測値がないデータを使っています。

欠測値があるデータに対して、多重補完法など高度な方法を使う場合は、解析手順書でより詳細な指示を追加する必要があります。

追跡失敗について

今回のデータでは、追跡失敗しているかどうかのデータは含まれていません。2年死亡が0の患者は、皆その時点まで生存しているものと扱われています。

もし追跡失敗例が存在する場合、残った症例のみを解析対象とすることで選択バイアスなどが生じる可能性があります。そのため、IPCW (Inverse Probability Censoring Weight) や、Causal survival analysisなどの因果推論の難しい手法が必要になる可能性があります。この場合も、解析手順書でより詳細な指示を追加する必要があります。

今後の展望

今回は、研究課題から統計手法の提案、解析手順書の作成、実際の解析と論文に必要なレポートの作成までAIに全任せで行いました。

結果は、一通り自動で行えたものの、解析の誤りもあり、まだ改善が必要な部分はあります。

しかし、今回はAIのパフォーマンス確認や再現性を優先するため、途中で結果を確認せず、最初から最後までAIに全任せで行っています。そのため、途中で適切に修正指示を与えることで今回のアウトプットより各段に良いものができるのは間違いありません。

つまり、適切に統計やRを使える方がAIエージェントを使えるようになれば、自分の手をほとんど動かさず解析することができます。さらには論文の一部も自動で作成できてしまいます。

さらに、今後もますますAIは発展していくことにより、各ステップの精度が高まることで、より高度な解析が可能になるでしょう。

今後が楽しみであると共に、早めにAIエディタなど最新のツールをキャッチアップしておくことをおすすめします。

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